ストレンジシード静岡:静岡の街を舞台に、アートと人々が織りなす熱狂の物語

ストレンジシードについて語る蔭山さん
静岡市のまちなかを舞台に、毎年秋に開催されるストリートシアターフェスティバル「ストレンジシード静岡」。2025年で10周年を迎えたこのイベント。今回我々取材班は、静岡の文化的な側面の成長に寄与しているこの取り組みの社会的な意義を探求するため、このイベント制作統括を行っている蔭山ひさ枝さんに取材をした。
【「ストレンジシード静岡」取材班、パフォーマンスの写真は蔭山さん提供】
蔭山さんの本職は「やどりぎ座代表取締役」であり、「劇団渡辺」に所属している。ストレンジシード静岡の運営では制作統括として、当日スタッフの対応や弁当の手配などの裏方が主な仕事だ。特に、当日スタッフと呼ばれるボランティアスタッフとアルバイトスタッフへの対応は大変で、連絡や当日の配置、ギャラの支払いなどさまざまな対応をするという。
ストレンジシード静岡は「劇場の敷居を下げたい」という熱い思いから生まれた。街とアートの懸け橋ストレンジシード静岡には「演劇の楽しさをもっと多くの人に知ってほしい」という蔭山さんの強い思いとも重なる部分がある。
蔭山さんは、自身が所属している劇団で毎週のように静岡市役所前の青葉公園でストリートパフォーマンスを行っていた経験から、劇場に足を踏み入れるハードルが高いことを実感した。「劇場に来るのはハードルが高いでも、街中でたまたま出合ったパフォーマンスに心を奪われ、そこから演劇に興味を持つ人もいるはず」。
そんな思いから、街を舞台にしたパフォーミングアーツ「ストレンジシード静岡」を立ち上げに関わったという。
「劇場の枠を超え、街全体が舞台となる」

公募出演者と共につくる、群衆が主人公となる白昼夢のような
演劇作品「χορός/コロス」

ビルの垂直な壁面や、空を舞台に繰り広げられる
空中ダンスパフォーマンス「Woman with flower」
(パフォーマンス写真はいずれも2023年)
ストレンジシード静岡最大の特徴は、なんといっても街全体が舞台となる点である。いつもの風景が、アーティストのパフォーマンスによって非日常的な空間に変貌する。観客は劇場という枠組みから解放され、道行く途中で偶然アートという、予想外の出合いが生まれるのだ。
「劇場とは違い、観客とパフォーマーの距離が近い。時には、パフォーマンスが観客を巻き込み、街行く人々が一体となるような、予想外の展開が生まれることもあります」と蔭山さんは語る。実際に、公園でパフォーマンスを見ていた通行人がいつの間にかダンサーたちと一緒に踊っていた、というエピソードもあるそうだ。
市との連携が、文化の芽を育む
静岡市内の劇団やダンサーが中心となって開催した小規模なイベントをきっかけに誕生したストレンジシード静岡。そのユニークな試みは、静岡市の目に留まり、十周年を迎えるほどの大きなフェスティバルへと成長した。「静岡市は、昔から大道芸が盛んな土地柄。街中でパフォーマンスを行うことへのハードルが低いんです」と蔭山さんは語る。行政の理解と、長年培われてきた地域の人々の意識。この二つが、静岡という土地で「ストレンジシード静岡」を花開かせたと言える。

お花のちょんまげと裃(かみしも)を作りフラワー侍となって、家康公と一緒に行列する
「フラワー家康といっしょにちょんまげ行列」
順風満帆に思えたストレンジシード静岡だが、コロナ禍は大きな試練となった。海外アーティストの招へいが困難になるなど、多くの課題に直面したという。
それでも歩みを止めはせず、オンライン配信を組み合わせたり、感染対策を徹底したりと、状況に合わせて柔軟に変化しながら開催を続けてきたという。蔭山さんは振り返って「コロナ禍を経験したことで、ストリートシアターのあり方自体を改めて問う機会になりました」と語る。
コロナ禍の当時は、毎年5月開催となっているストレンジシード静岡が、2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令された為、その年の9月にThe Parkという名前で、駿府城公園を中心に静岡の人たちを目当てに配信と野外公演の二つにわけて行ったそうだ。感染対策のガイドラインを作り、アーティストたちと話し合っての開催だったという。
またこの時、静岡の人に観客を絞ったため、助成金を集めにくい状況にもなった。「それで、1 回規模縮小かなっていう雰囲気もあったのですが、2023年からは観客数も回復し、翌年は入口側に消毒液がおいてあったり、観客の中でマスクをしている方がいたりする以外はコロナ前に戻った感じがすごくありました」と話す。
コロナ禍の開催について我々が「助成金の問題とは何なのかもうちょっと詳しく聞けますか?」と尋ねた。「静岡市主催のフェスティバルは、市からの資金だけではアーティストの要望に応えきれないため、他の助成金が必要となる。
しかし、文化庁などの助成金は、受益者が静岡市民に限定されると採択されにくい傾向がある。助成金獲得のため、ジェネラルマネージャーなどが尽力しているが、地域限定のイベントであるため、資金調達を頑張っている感じですね」と苦悩も語った。
地域と世界をつなぐ、文化の種を蒔き続ける
蔭山さんは、国内外のアーティストと連携し、ストリートシアターの可能性を追求し続けたいと考えており、ストレンジシード静岡は単なるイベントではなく、街に文化の種を蒔き、育てるための場所だという。蔭山さんは「ストレンジシード静岡のグローバル化は、日本の芸術祭に国際的な視野を広げる重要な要素です。海外の芸術ディレクターやアーティストとの交流を通じて、日本のアーティストや観客が新しい視点を得られる機会を提供しています。また、国際的な芸術を取り入れることで、地元の芸術活動や観客の共感の形成にも寄与しています」とイベントの社会的な意義について語る。
コロナ禍以前は毎年「ネットワークミーティング」と呼ばれる交流会を開催していたそうで、海外の芸術祭ディレクターを招待し、その話を聞いたり、アーティストが作品をプレゼンしたりする場を地域へ提供していた。コロナの情勢により一時停止したが、近年は予算の制約や会場の利便性を考慮し、主に韓国など近場の国から芸術祭ディレクターを招待したり、現在は地域的な国際交流を中心に活動を続けたりしている。
また、これまでのネットワークミーティングを通じて、アーティストが他国の芸術祭に招待される機会も増えているそうだ。
協賛を得る取り組みや個人協賛、企業協賛などを通じて、少しずつ自ら資金を生み出し、活動を続ける工夫によって、今後、海外からの参加者を再び増やすための努力を続けていく予定だと語った。
静岡にまかれた演劇・アートの種は国境を越えて世界をつなぐ大樹となるだろう。これから世界を魅了する創造が、ここ静岡から生まれる。
取材班は、小松倭、中島果鈴、太田絋夢、符睿、劉又賓(いずれも静岡大学人文社会科学部「地域メディ論Ⅰ」履修生)。

蔭山さんにインタビューを行う取材班メンバー(右)
略歴
かげやま・ひさえ 愛知県出身。静岡大学を卒業し劇団渡辺を立ち上げる。2024年度「イナバとナバホの白兎」に出演
(催し)
ストリートシアターフェス ストレンジシード静岡2025
5月3日(土・祝) 〜 5日(月・祝)開催。静岡市・駿府城公園、青葉シンボルロード、常盤公園など静岡市内が会場となる。観覧は一部の予約制・有料の場合を除いて無料。
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