食を通してつながる静岡と世界
「多文化社会」。近頃、ニュースや新聞でよく耳にするこの言葉の意味を、私たちは毎日の生活の中で感じている。日本の首都圏では、外国人が浴衣や着物を着て、そばをすするような光景は珍しくない。静岡も例外ではなく、観光客があふれているように感じる。静岡市では毎年、食を通した異文化交流を目指すイベント、「わいわいワールドフェア」が開催される。そのイベントに出店している一つの飲食店とその店長について興味が湧き、今回取材をおこなった。
【「ジャヤさん」取材班】
ジャヤさんとスパイシーコロンボ
「スパイシーコロンボ」。静岡駅の南口側にあるこの店は日本では珍しいスリランカ料理の飲食店だ。店長はスリランカ出身のジャヤさん。ジャヤさんは自分のルーツであるスリランカについて、こう語る。「地元のネゴンボは貿易に栄えた街でビーチがたくさんある。ディナーを楽しんだり、パーティーをしたりしているハッピーなピープルが多い」。ジャヤさんの地元、ネゴンボはインド洋に面しており、昔からオランダとの交易が盛んな街だという。そんなネゴンボ、もといスリランカ全体は緑が豊富で海が奇麗、水もおいしいところが静岡との共通点だそうだ。

カウンターで飲み物を注ぐジャヤさん
来日の経緯
彼が日本に来て、静岡で店を構えたのには複雑な経緯があった。初めは日本語を学びに語学留学したジャヤさんは、次第にとある夢をかなえたいと強く感じるようになっていった。それがプロレーサーだ。世界で大人気の映画「ワイルドスピード」。さまざまなレーサーたちが疾走し、ドリフトをする様がジャヤさんの心に深く突き刺さったようだ。
日本語学校を卒業したのち、専門学校へ入り本格的にプロのレーサーになるための訓練を積んだが現実はやはり甘くなかったようだ。「ジープ静岡」と「フェラーリ静岡」で9年半働いたが、それはレーサーとしてではなく、メカニックとしての仕事だった。開店した現在も、ジャヤさん自身はこの夢をあきらめておらず、「自分たちでレースチーム作って遊ぶっていう感覚を学んだんですけど、将来レーサーになるような子たちをバックアップして、PRするお店を日本に来てからやりたいなと思っています」と心境を語っていた。
ジャヤさんの「挑戦」
このように常に自分の目標へ向かって努力するジャヤさんは、日本という地元とはかけ離れた環境でさまざまな苦労をしたに違いない。しかしその点についての回答はとても意外なものだった。「スリランカから静岡へ来て、初めは環境の変化に慣れなかったけれど、自分の中のスイッチを切り替えることで別に苦労は感じていません」。日本人は食事の予定一つとっても2、3カ月前から計画を立てるなど、計画性がとても高い、とスリランカと日本の文化の違いについて語っていたものの、そんな環境に慣れることを「苦労」ではなく、「挑戦」と表現していた。
そんなジャヤさんは来日してからというものの、さまざまな人々と交流をし、その日々の中で「スパイシーコロンボ」を開店することになったと語っていた。中でも小さい子供たちと交流していく内に気づけたことがたくさんある、と言う。「子供はとてもか弱い。だからこそこちら側としても守りたくなります。国家も文化も関係なく平等に接して、もっと人々を愛していきたいです」。そう語るジャヤさんには大きな説得力を感じた。

「わいわいワールドフェア」に参加するジャヤさん
日本とスリランカの食文化
さらにジャヤさんは日々の「挑戦」について詳しく語ってくれた。「日本へ来てはじめのころはコンビニでおにぎりを買っても、馴染みのないのりを外して食べていました。今では生魚にも慣れ、寿司も刺身も食べます」。
そうした日本食への取り組みが積極的に挑戦し続ける姿勢が「スパイシーコロンボ」につながっているのだと感じた。また、日本の豊かな気候を生かした、和食の文化は間違いなく世界に誇れるものだ、とジャヤさんは話す。
私たちにとって和食はとても馴染み深いものだが、逆にジャヤさんにとってスリランカ料理とはどのようなものなのか。ジャヤさん曰くスリランカ料理の大きな特徴はスパイスらしい。香辛料の国として栄えたインドのすぐ近くにあるこの国でもやはり、スパイスは重要な役割を握っているようだ。そのことは店名を見ても明らかだろう。スリランカでは、料理とライスを大きな皿に乗せて、ランチプレートの形式で食べるのが人気だ。スリランカにおいてもやはり食はとても重要であり、「ご飯を食べながら笑顔で意見交換をしたり、交流をしたりする時間がとても幸せ。ご飯をしっかり食べる人は人間関係を作るのが上手でコミュニケーション能力が高い傾向にあります」と私たちに教えてくれた。

「スパイシーコロンボ」の料理
これからの展望とジャヤさんの信念
これまで経験を積んだジャヤさんは、これから目指す先について大きな夢を語っていた。今ではすっかり日本食が好きになったジャヤさんは現在、日本のラーメンの研究を進めているという。そしてこれからは自分がスリランカから日本へ来たように、日本からスリランカへ行きたい、という人を募るつもりだそうだ。そして自身も将来スリランカへ戻り、今度は向こうで日本食の店をやりたい、と熱弁していた。
「人間も他の動物も、植物や動物の命をいただいて生活しています。僕が食を通じて分かったのは、人においしい料理を出して笑顔にさせるっていうのはとても良い仕事だということ」。スリランカという遠く離れた国でも、やはり食事は大切なものであり、人と人をつなげるものとして大きな役割を担っている、ということはなにも変わらないのだ、と確信した。

「スパイシーコロンボ」店内 記念撮影するジャヤさん
取材班の体験
2024年9月にジャヤさんが新オープンした、「スパイシーコロンボ」に次ぐ二つ目の飲食店、静岡駅前の「静岡パルコ」3階にある「トロピカルハーブファクトリー」は、静岡にいながら本場のシェフが作る本格的な南国料理を楽しめるレストランだ。スリランカ、インドネシア、タイ、シンガポール、南インド、メキシコなど、さまざまな国のハーブとスパイスをふんだんに使用したメニューの数々が楽しめる。実際に店へ赴いた取材班の一押しメニューを以下に紹介する。

「トロピカルハーブファクトリー」の内装
三浦(取材班員)「タイ料理のガパオライスです。お米は東南アジアなどでよく見る細長いものでソースはスパイスが効いており美味しかったです。本場のものというよりは日本人向けの味付けになっていると感じました。」

ガパオライス
鈴木(取材班員)「シンガポール料理の海南鶏飯(ハイナンチーファン)です。全体的にボリュームがあって、満足できる一皿です。鶏肉はとても柔らかく、ジンジャーがきいていて、さっぱり食べることができます。バスマティライスもおいしく、ソースと絡めて食べるのかおすすめです」

海南鶏飯
アン(取材班員、ベトナム留学生)「私はメキシコ料理のチキンファジータをいただきました。一般的にはグリルチキンが使われていますが、本店ではエビも使用し、シーフードの香りも感じをしました。パプリカ、ガーリック、ブラックペッパー、オレガーノ、タイム、カエンで風味をつけ、とてもおいしいメキシコ風の味でした。」

チキンファジータ
静岡にいながら、さまざまな国の料理を楽しめるこのレストラン。駅周りへ買い物に行ったとき、訪れてみてはいかがだろうか。
JAYATHTHILAKA (ジャヤティラカ) スリランカネゴンボ出身。「スパイシーコロンボ」の店長。スリランカのネゴンボに生まれ、2008年に日本語の学習のために日本に留学、静岡での生活を始める。静岡の日本語学校を卒業した後、2級自動車整備士の資格を取得するために自動車の専門学校に入学。卒業後は2級自動車整備士として「ジープ静岡」と「フェラーリ静岡」に9年半ほど務める。その後、21年にスリランカ料理店である「スパイシーコロンボ」を静岡市でオープン。24年9月には「静岡パルコ」に「トロピカルハーブファクトリー」もオープンした。静岡市で行われているイベントの「わいわいワールドフェア」にも出店し、静岡市で異文化交流を盛んに行っている。
店情報
Spicy Colombo ( スパイシー コロンボ )
月曜日定休
営業時間
11:00~15:00
18:00~22:00 L.O21:30
ディナーはダイニングバーとして営業
静岡県静岡市駿河区南町10−14 オラシオン南町2F
TROPICAL HERB FACTORY(トロピカルハーブファクトリー)
月曜日定休(月曜日が祝日の場合は、営業。火曜日が振替休日
営業時間
11:00 – 19:30 L.O. 19:00
静岡県静岡市葵区紺屋町6−7 静岡PARCO 3F

スパイシーコロンボの看板
「ジャヤさん」取材班は、鈴木友輝、緒方誠心、三浦宇登、坂上慧、TRUONG QUOC ANH(いずれも静岡大学人文社会科学部「地域メディア論Ⅰ」履修生)