かんぴょう生産日本1の苦悩、「ヤマケ」の挑戦

動機

 栃木県は国産のかんぴょうの約99%を生産しており、生産量日本一を誇っている1。そこで私たち取材班は、かんぴょうに着目し、「栃木県干瓢(かんぴょう)商業協同組合」の代表理事である毛塚安彦さんが経営する、「ヤマケ」(壬生町)を訪問した。

【「かんぴょう」取材班】

かんぴょうへの熱い思いを語る毛塚安彦社長

 私たちがかんぴょうに焦点を当てた理由は、県内唯一の国立大学である宇都宮大学に通っているのに、県が誇る生産量日本一のかんぴょうの製造方法や生産過程、加工の仕方を何一つ知らなかったからである。このままかんぴょうについての知識がないままだと、私たちは「地元の宇都宮大学に通っている」と胸を張って言えないのでは、という危機感が芽生えた。

ヤマケについて

 今回、私たちが取材したヤマケは栃木県のかんぴょう発祥地の壬生町に位置し、1907年に、現社長である毛塚安彦さんの曽祖父が創業以来、100年以上かんぴょうを扱ってきた歴史のある会社である。

 ヤマケではかんぴょうの選別、小分け、卸しを行なっており、現在は主に食品メーカーの「桃屋」や、スーパーのヨークベニマル、イオンなどへ卸している。卸先によって、同じかんぴょうであっても、のり巻き用やちらしずし用、おでん用など用途はさまざまであり、それぞれ必要なかんぴょうの状態が違ってくる。それぞれの要望に合わせた固さや長さ、太さを作ることに力を入れており、その製品品質がヤマケ一番の強みだという。毛塚さんは「お客様にとって使い勝手のいい製品を作ることが基準です」と語る。

 毛塚さんの息子は、現在、農業法人みずのえファームの副社長として活動している。「みずのえ」とは、「壬」の字の訓読みであり、壬生町に根付いた事業を行いたいという考えのもと付けられたそうだ。

 みずのえファームでは「栃木県の伝統的な農産物を後世につなぎ、県の地域活性化に貢献すること」をミッションとして活動しており、その始まりがかんぴょうだった。

 県内で多く生産されているかんぴょうであるが、近年では生産農家の高齢化・後継者不足により作付面積・生産量が減少している。かんぴょう生産振興に本気で取り組み、この現状を改善させるためにみずのえファームは立ち上げられたという。このように毛塚親子はともに栃木県伝統の農作物であるかんぴょうを存続させるために日々奮闘している。

かんぴょうの長さや太さを選別する従業員(壬生町のヤマケ工場で)

かんぴょうの特徴

 ところで、読者のみなさんはかんぴょうについてどれくらいの知識を持っているだろうか。かんぴょうの原料となるのはユウガオ(ウリ科ヒョウタン属)という農産物で、その果肉を薄く細く割いて乾燥させた食品のことをかんぴょうという。毛塚さんから聞いて初めて知ったことは、「かんぴょうは畑で獲れる野菜の中で食物繊維が最も多く含まれている」ということだ。

 かんぴょうは100グラム中に食物繊維が30.1グラムも入っている2。食物繊維が多いことで有名なゴボウ中でも100グラム中に約5.7グラムだから、その6倍近い食物繊維がかんぴょうには入っていることになる3

 かんぴょうは食物繊維をとるのにうってつけな食品で、健康志向がある人に向いていると言えるだろう。

かんぴょうの需要

 普段なかなか口にする機会がないように思われるかんぴょうだが、毛塚さんによると、その存在を意識してみると身近なところで多く使われている。例えば、おでんのもち巾着の油揚げを閉じている結びひもだ。結びひもとして使うことができて、食べることができるものとして非常に貴重だという。

 他には、かんぴょう巻や五目ずしの具にも使われている。ヤマケでかんぴょうを加工する際に一番多く生産しているのが巻きずしとして使うための長さにカットしたものであることから、巻きずしとして使うための需要の高さがうかがえる。実際にヨークベニマルの総菜のかんぴょう巻用に加工して卸すなど、家庭で調理するためだけではなく企業が調理して総菜として販売するための需要もある。

 また、食物繊維が豊富で栄養価が高いことに着目してこれら以外の料理に取り込まれることもある。例えば、かんぴょうを粉末状にしてラーメンの生地に練りこまれたりしている。そうすることで手軽に食物繊維補給ができる。

 かんぴょうの利用は食用にとどまらず、医療分野でも利用しようという動きがみられる。自治医科大学(下野市)ではかんぴょうの感触が人の肌に近いとして、縫合の練習キットとして採用できるように研究が進められているという。

 このようにかんぴょうには多くの用途があり、それぞれの場面に合わせた最適な長さや硬さの実現がヤマケには求められている。質のいい栃木県産かんぴょうの評価は高く非常に人気がある産物であるためその需要は今後も落ち込まないように思える。

課題

 さまざまな場面で需要の高いかんぴょうだが、需要の高さを理由に課題が生じている。

 現在、かんぴょうの需要に対し供給が追い付かず、栃木県産のかんぴょう消費量は激減しているという。生産が追い付かない理由として、生産者不足が挙げられる。なぜ需要が高いにも関わらず生産者が増加しないのか。毛塚さんは「それには経営の観点から見えるかんぴょうの弱点がある」と指摘する。

 かんぴょうの収穫は6月下旬から8月下旬にかけて約2カ月の間行われる。需要の高さから収穫期間の2カ月間だけでみると収益性が高いが、乾燥のためのボイラーなど設備投資が欠かせない上に、2カ月しか収益がないと経営面では1年間の売り上げが立たない。

 このため、同じ設備投資を行う施設園芸なら、1年中仕事があるトマトやイチゴを生産する農家が多いため、かんぴょうの生産には新規参入は少ないという。実際に現在かんぴょうを生産している農家もかんぴょうの他にニラなどを生産して経営を保っているそうだ。

 このような生産の課題に直面していることで、ヤマケでは受注数を制限し、新規の注文を断っているという。取材の中で事業をやってきた中で一番苦しかった時期を聞いたところ「今のこの状況です」と毛塚さんは答えた。

 受注数の制限をしないと栃木県産は大手スーパーが買い占め、中小スーパーで販売できなくなってしまうという。既に栃木産が置いていないスーパーも出てきているようだ。今の状況に対し毛塚さんは「さびしいじゃない。売れる分は売りたいでしょ、正直ね。収入を断る状態になっちゃてるからね。きついよね」と受け入れたくても受け入れられない悔しさを語った

かんぴょう料理

 栃木県の特産品「かんぴょう」が持つ可能性を広げる試みとして、2021年には栃木県干瓢商業協同組合主催の「かんぴょうレシピコンテスト」が開催され多くの創作料理が注目を集めた。このコンテストでは、従来の煮物やすしに留まらない新たな調理法や味付けが提案され、かんぴょうの魅力が再認識された。特にグランプリとして選ばれた作品の一つは、かんぴょうを使ったスイーツで、イチゴとの組み合わせが新鮮な「かんぴょうdeローズパイ」が話題となったという。

 このような試みは、かんぴょうが和食だけでなく、洋菓子やエスニック料理への応用可能性を示した点でも意義深い。現代の食文化において、その魅力を広く知ってもらうため、こうしたイベントは今後も重要である。次世代のアイデアが加わることで、かんぴょう料理の可能性はさらに広がるであろう。

取材を終えて

 国内産のかんぴょうのほとんどが栃木県産であることや、その栃木県で生産が需要に追いついていない現状、料理コンテストなどのユニークな取り組みによる普及を促進していることを初めて知ることができた。すしやおでんなどの日本食に欠かせない食材でもあるかんぴょう。国内生産をこれからも守っていくためには、私たち若い世代がまずかんぴょうに興味を持つことや、食べてみる機会を増やすことから始めていくのが良いのではないだろうか。

参考文献

株式会社ヤマケ https://www.yamake.co.jp/ 

農業法人 みずのえファーム https://mizunoe-farm.co.jp


  1. e-Stat 統計名:地域特産野菜生産状況調査 確報 平成30年産地域特産野菜生産状況 表番号3-1より
    https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0001874394
    閲覧日 2024/12/10 ↩︎
  2. 文部科学省 日本食品標準成分表2015年版(七訂) より https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/11/30/1365343_1-0206r8_1.pdf
    閲覧日 2024/12/10 ↩︎
  3. PREZO「ごぼうに含まれる食物繊維の量と効果は?栄養豊富で健康維持にぴったり」より
    https://prezo.jp/colmun/5880?srsltid=AfmBOorQZxLff2VmaYrLSwro42MShRFZYHdAeZjBVgIBFeB7JSS7QRBq
    閲覧日 2024/12/17 ↩︎

取材班は、小堀晴基、吉宮煌鎧、芥川結衣、飯田陽音、野田小百合、永久保莉沙(いずれも宇都宮大学地域デザイン科学部「地域メディア演習」履修生)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です